ゲームボーイ初期にあたる1989年に発売された、同機種初のRPGであり、スクウェア(現スクウェアエニックス)初のミリオンセラー作品でもある、サガシリーズの第一作目です。フィールドは見下ろし視点(2Dタイプ)、戦闘シーンはコマンド入力方式を採用しているので、見た目が『ドラゴンクエスト』タイプのオーソドックスなRPGのような印象を受けますが、ゲームボーイ初のRPGでありながらも様々な部分で実験色が見られ、その斬新なシステムの追求は以降のシリーズにも引き継がれています。

 本作でもっとも特徴的である成長システムは、従来のRPGの様な経験値によるレベルアップ制を排除し、選んだ種族によって成長方法が異なっています。「人間」は成長アイテムを使う事によって強くなっていき、「エスパー」は戦闘後の突然変異でステータスが変化し、「モンスター」は戦闘終了後に倒した敵が落とす肉を食べると別のモンスターに変身します。但し、「モンスター」の場合は別モンスターに変身することによって逆にパワーダウンする事もあるので、食い合わせの相性に注意が必要です。パーティは最大4人なので、種族の組み合わせによっては難易度が大きく変化します。筆者的には、比較的早い段階でステータスをマックスにできる「人間」は攻略が一番楽で、運の要素も必要な「モンスター」オンリーでのクリアが一番難しいと思います。

 世界観の作りも秀逸で、本作の舞台である「塔」の階層によって、それぞれ特徴が異なる4つの世界が存在するのが面白いところです。ゲームの最終目的が、とにかく上の階層に上るというのも、ゲーム的に分かりやすくていい感じです。筆者的には当時好きだったTVアニメ、『魔神英雄伝ワタル』の「創界山」を彷彿させ、初プレイ時は次の階層はどうなっているのか楽しみにしながらプレイしていました。

 バグの多さが指摘されている本作ですが、それを逆手に取った遊び方も当時の筆者ではマイブームでした。例えば、ある場所でセーブし、一旦リセットしてからすぐロードして上方向に歩くと上の階層へワープしたり、成長アイテムの使い方によっては種族に関わらず大幅にステータスがアップする等、ゲームバランスでさえ軽く崩壊するような遊びが出来るのが本作の裏の魅力だと思います。人によっては邪道な遊び方の様に思えますが、そのバグによって遊び方の幅が広がったので、筆者としてはお気に入りの要素だったりします。これが本当に楽しく、一時期は2時間も掛からずにクリア出来きたほど、繰り返しタイムアタックもやってました。

 残念だったのがセーブが1つしか出来なかった事でしょうか。当時の小中学生は友達との貸し借りが多かったので、一つのカートリッジを共有出来ないこの仕様は残念でした(続編では改善)。また、人間が扱う各種武器には耐久性の概念があり、常に残りの使用回数を把握する必要があるのも面倒で、手軽に遊べる携帯ハードには相性の悪い仕様の様に感じます。
 気になるボリューム面は、慣れれば数時間程度でクリア出来るほど当時のRPGとしても少なめですが、今となっては繰り返し色んな種族でプレイする事を前提とすればこれで丁度良かったです。
 各種イベントは、容量の関係かスクウェアRPGとしてはかなりあっさり気味ですが、シナリオ自体はそれなりに良く出来ていて、展開も非常にスムーズです。始めたい時にいつでも始められて、止めたい時にいつでも止められる、携帯ハードの作品としては上手くコンパクトに収まっています。
 近年の携帯ハード向けRPGは、据え置きハードのRPGの仕様をそのまま移行した感じで、イベントが長すぎたり、システムが複雑過ぎて手軽にプレイできないものが多いので、携帯ハードらしいRPGはこのゲームボーイ初のRPGで完成してしまったと思います。

 これは有名な話なので敢えて書く必要はないのですが、お約束なので一応書いときます。ラスボスは普通に戦うと無茶苦茶強いのに、"ある武器"を使うと一発で死ぬのはいくらなんでもなあ…