1988年に稼働されたセガの同名アーケードゲームを、その数ヵ月後(同年)に発売された移植版で、メガドライブ最初期にあたる作品です。実はこのソフト、当初はローンチの発売を目指して開発していましたが、開発が遅れ、メガドライブ第三弾タイトルとして発売されました(なお、第一弾とニ弾はローンチで発売された『スペースハリアーII』と『スーパーサンダーブレード』)。
本作は二人同時プレイが可能な半強制スクロールのサイドビューアクションゲームで、パンチ・キックの格闘技を武器としたプレイヤーキャラを操るという、アクションゲームとしてはオーソドックスなものですが、スピリットボールと呼ばれるパワーアップアイテムを3つ集めることによって獣人キャラに変身できるのが特徴です。
 
5ステージ構成のループ制で、変身できる獣人は各ステージ固定となっていて(裏技で変更可能)、ステージ1はウェアウルフ、ステージ2はウェアドラゴン、ステージ3はウェアベア、ステージ4はウェアタイガー、ステージ5はウェアウルフ強化版に変身することができ、各獣人はそれぞれ異なる攻撃方法を持ち合わせています。変身する前の人間タイプはパンチ・キックという地味な技ですが、変身後はそれまでの鬱憤を晴らすような派手な攻撃による爽快感を味わえます。
 
当時の最新ハードであるメガドライブであっても、4メガビットという少ない容量でアーケード版の内容を全て収録することは難しかったのか(但し当時の家庭用では充分に大容量だった)、オープニングやエンディングなどの一部のデモシーンは削除されていますが、売りであった獣人への変身シーンや、ステージ構成は(ほぼ)アーケード版を再現しています。
また、メガドライブは家庭用据置機では初めて、アーケード版同様にコントロールパッドに3つのボタンが付けられているので、PCエンジンやファミコンで発売された移植版のように操作方法にアレンジはありません。ただ、アーケード版では重かった操作感が、このメガドライブ版では大分軽くなったので遊び易くなった印象です。
 
元のゲームがそうであったようにアクションゲームとしては大味で、しかもこのメガドライブ版はアーケード版と比べ難易度が低く、操作がしやすいということもあり、ある程度アクションゲームに慣れている人なら力押しで攻略できてしまいます。緻密な攻略を求めるようなゲーマーには向かないですが、難易度的にもボリューム的にも丁度良く、獣人になるとなかなかの爽快感を味わえるので、本作と相性が合えば、ちょっと軽く遊ぶに適しています。また、アーケード版同様二人同時プレイも可能なので、接客ソフトとしてもそこそこ楽しめるかと思います。
衝撃的すぎるエンディング(?)がカットされたのが個人的には残念ですが、当時の最新アーケード作品をメガドライブのパワーを活かし、大きなキャラクターやFM音源によるサウンド、二重スクロールで再現することによって、初期メガドライブの性能をアピールするためのデモンストレーション的な役割をそれなりに果たしたと思います。
 
アーケード版の評判がよかったのか、このメガドライブを始め、PCエンジンやファミコンにも移植されましたが、正直他機種に渡って移植されたのか疑問に思います。
最初こそは獣人のインパクトでそれなりに楽しめますが、ゲームとして大味ということは、裏を返せば奥が浅いので、飽きもかなり早いです。しかもそんな飽き易いソフトをソフトのラインナップが不十分だったメガドライブ初期に発売したので、当時リアルタイムで購入した人の中には、やるゲームがなく延々をプレイした人も多かったと思います。メガドライブ発売の数か月間のラインナップを見ると、当時のユーザーはよく耐えれたと思います。
その後も、WiiのバーチャルコンソールやXbox360Liveアーケードのような配信サービスでも、初期タイトルに本作が選ばれることが多いので、セガにとって本作はセガの代表作という扱いなんでしょう。ただ、一般人でも楽しめるかと言われるとかなり微妙な出来なので、悪い意味で「セガのゲームは癖が強い」という印象を植え付けてしまった人もいるかと思います。
 
ゲーム部分だけでなく、初期タイトルならではの技術不足な部分も含め、正直佳作と呼ぶには厳しい部分もありますが、操作性やバランスに癖があるアーケード版よりも、遊び易く改善されたメガドライブの方がお気に入りだったりします。アーケードの完全移植が当たり前の今ではそういった方向性は認められるか微妙なところですが、それが容認されたのはこの時代のゲームならでしょう。筆者はメガドライブ版をクリアーした後にアーケード版をプレイしたのですが、あまりにも操作性が違うので、一面すらクリアーできませんでした。アーケード版の雰囲気を楽しむゲームと言えるでしょう。個人的には、つぶらな瞳が愛くるしいウェアベアを見る為にたまに引っ張りだしては遊んでいます(笑)
 
ところで発売当時、小学5年生だった筆者は本体を未所有でしたが、近くのスーパーのゲームコーナーに本作のデモ機が置いてあったので、他の子供たちと順番待ちしながらひたすらプレイしていました(二人同時プレイだったので順番の回転率が早かった)。今思えば大味なゲームなのですが、当時はまだファミコン全盛期ということもあり、ファミコンでは実現できない大きなキャラクターの迫力や、美しいグラフィックに感動し、先のステージの獣人が見たいがために無我夢中でプレイしていました。難易度の低さも、アクションゲームが下手な当時の筆者にとっては嬉しい要素でした。しばらくして、メガドライブ初期のキラータイトルである『大魔界村』が発売されるのですが、それまで筆者にとってメガドライブは『獣王記』でした。そもそもそれしかプレイしていなかったのもありますが…(笑)
 
ちなみにポケットサイズのソフト内蔵メガドライブが海外から発売されていますが、大味なゲーム性のおかげで下手なゲームよりも遊び易かったりします。もっとも、スクロールの速いソニックや、シビアな操作が求められる忍シリーズは携帯ハードに向かないですからね。